2026.3.5
レポート:映画『かぶと島が浮く日』片山享監督×松林慎司さん アフタートーク
2026年3月1日、第3回北九州国際映画祭のKIFFセレクション作品として、映画『かぶと島が浮く日』の九州プレミア上映が行われました。
上映後には片山享監督と、主演であり本作のプロデューサーも務めた松林慎司さんが登壇。司会を務める小倉昭和館の樋口館長とともに、作品に込められた街の記憶と再生への想いが語られました。

「街の日常を描きたい」— あえて“錦帯橋”を映さない地元愛
本作は松林さんの故郷である山口県岩国市を舞台に、再開発によって閉館が決まった映画館の支配人の姿を描いた物語です。
岩国市の観光大使も務める松林さんは、「20代、30代の時は地元・岩国を顧みることがなかったが、観光大使をきっかけに街の良さを物語を通じて発信したいという思いが出てきた」と企画の原点を明かしました。
劇中では岩国を象徴する観光地「錦帯橋」をあえて映さないという、片山監督の強いこだわりも語られました。「岩国に住んでいる人の話にしたかった」という監督の提案に、松林さんも深く同意 。錦帯橋そのものは出ないものの、駅前のアーケードのアーチ状の形状にその面影を表現したという、地元愛に溢れた繊細な演出に会場からは感心の声が漏れました。

「失ったからこそ、いまの幸せを感じる」— 映画館の再建と交差する想い
トークが一段と熱を帯びたのは、映画の舞台である「閉館する映画館」という設定についてです。代々続く3代目の支配人を演じた松林さんが「先代から引き継いできたもので、再開発で閉めなきゃいけないという申し訳なさや、父親たちが守ってきたものが取り壊される寂しさを背負って演じた」と振り返りました。
すると、自身も火災で映画館を失い、再建を果たした樋口館長は「私にとっては胸が痛い」と深く共鳴。
「失ったのに再建していただいたからこそ今があるんだなと思って、改めて皆様にご支援応援いただいてこの映画館を作れたことの幸せを感じた」と語る樋口館長の言葉に、松林さんと片山監督も深く頷き、フィクションと現実が交差する瞬間、会場は静かな感動に包まれました。

「常に新しく今日を見ていきたい」— タイトルに込められたロマン
印象的なタイトル『かぶと島が浮く日』について、片山監督は松林さんの子供時代の「毎日、甲島の様子が違って、今日は浮いて見える日もあった」という思い出話から着想を得たと語ります。
「大人になると結局今日の継続で明日になっていたりとか、明日が怖かったりするが、幼い頃のように常に新しく今日を見ていきたい。過去から今を見た時、気持ちがちょっと楽になるんじゃないかという想いを、カブト島が浮く姿に被せた」と明かされた監督のロマンチストな一面に、樋口館長が「男の人のロマンですね」と微笑ましく返す場面もあり、会場は終始温かな笑いに包まれました。
終盤、片山監督が「初めて小倉に来て街並みが本当に素敵で、本当映画撮っていいですか?」と熱烈なラブコールを送ると、客席からは大きな期待の拍手が沸き起こりました。
最後に松林さんから「変わっていくものと変わらない景色っていうのがその街にはあって、この映画を通じて皆様に届けばいいなと思っております」と力強いメッセージが送られ、九州プレミアにふさわしい充実のイベントは締めくくられました。